AIに自分を150回近く説明したら、「プロフィール」ではなくなった

AIに自分のことを覚えさせるために、147回話し、31万文字を超えた。できたのはプロフィールではなかった。必要なのは属性ではなく条件で、AIの誤解も矛盾もUNKNOWNも残すことになった。Founder Corpusを作っている話。

AIに自分のことを覚えさせる。

最初は、そんなに難しい話には見えない。

仕事、経歴、得意分野、好きなもの、価値観。
プロフィールを詳しく書いて渡せば、それなりに「自分らしいAI」ができそうに思える。

でも、実際にやってみると全然違った。

私はここしばらく、自分自身を材料にして「Founder Corpus」というものを作っている。

現在までに投入した私の発話は147件。

単純に1回5分としても735分。12時間15分になる。

もちろん、すべてを5分で答えたわけではない。すぐ答えられたものもあれば、昔のことを思い出しながら長く話したものもある。

AI側の応答やツール実行を含めると、アクティブな会話だけで389件。本文は31万5,454文字になった。

それだけ話したのだから、さぞ精密な「私のプロフィール」ができただろう。

ところが、できたものはプロフィールとはかなり違うものだった。

「私はこういう人です」では足りなかった

たとえば私は、新しいものを発見すると猛烈に走ることがある。

一方で、本棚を見ると、過去に興味を持った大量のテーマが残っている。

プロジェクトマネジメント、食、環境、ガバナンス、非営利活動、マーケティング、営業、日本の近代史、世界の近代史、金融、画像編集、プログラミング。

こういう情報だけを集めると、

「好奇心が旺盛で、多くのことに挑戦する人」

という人物像が簡単にできる。

たぶん間違いではない。

でも、ほとんど役に立たない。

知りたいのは、

「何を発見したときに走り出すのか」

「なぜ猛烈に投入するものと、途中で止まるものがあるのか」

「一度止まったものは、何が起きれば再開するのか」

のほうだからだ。

つまり必要なのは「属性」ではなく、条件だった。

「好奇心が旺盛で、多くのことに挑戦する人」という属性の説明と、何を発見したときに走り出すのか、なぜ途中で止まるものがあるのか、何が起きれば再開するのかという条件の問いの対比

AIは人間をきれいに説明したがる

もう一つ、やってみて分かったことがある。

AIは、人間の話から一貫した物語を作るのがとても上手い。

そして、それが危ない。

私は過去の出来事や家族の話、仕事、競争、お金、能力、故郷、料理、本など、かなりいろいろな話をした。

するとAIは、それらをつないで、

「だから現在のこの価値観が形成された」

という美しい説明を作る。

読んでいると、なるほどと思う。

でも、ときどき私は言った。

「いや、それは深く読みすぎ」

「そこまではつながっていない」

「全部をその原理で説明するのは、きれいすぎる」

これが重要なデータになった。

現在のFounder Corpusでは、AIが見つけた特徴だけではなく、私が否定した解釈を「CORRECTION」として残している。

現在10件ある。

つまり、

AIが私について何を理解したかだけでなく、どう誤解したかも保存している。

AIがつないだ「だから現在のこの価値観が形成された」という説明に対して本人が否定した言葉を、CORRECTIONとして保存する図

これは予想以上に重要だった。

矛盾も消さない

人間には、簡単には統合できない部分もある。

たとえば私の場合、

「お金そのものが幸福だとは思っていない」

一方で、

「資本主義というゲームでは、一度ちゃんと勝ってみたい」

という感覚もある。

昔はかなり競争心が強かった。

今は競争そのものから距離を取っている部分もある。

でも、勝てばやっぱり嬉しい。

こういうものをAIに要約させると、

「競争心はあるが、現在は競争から距離を置いている」

などときれいにまとめてしまう。

しかし、それでは情報が減っている。

そこで現在のモデルでは、こうしたものを「TENSION」として、矛盾したまま保存することにした。

現在10件ある。

どちらが本当なのかを決めるのではない。

どんな条件で、どちらが前に出てくるのか。

そちらをモデル化しようとしている。

二つの感覚を一文に要約すると情報が減るため、TENSIONとして矛盾したまま保存し、どんな条件でどちらが前に出てくるのかをモデル化する図

31万文字話しても、まだ分からないことがある

ここが一番面白い。

これだけ自分のことを話しても、モデルにはまだUNKNOWNが残った。

たとえば、

  • 新しいものを発見したあと、制作や実用まで進まず止まる条件
  • 能力があれば他人を助けようとする傾向が、どの距離の人まで発動するのか
  • 品質を「これで十分」として止められる条件
  • 新規性や収益がなくても長期間続けられた活動は何か
  • 中断したものを再開する条件
  • 人間関係が壊れたあと、修復できた例外はあるのか

こういう問いが残っている。

つまり147回話した結果、

「私という人間が分かった」

のではなかった。

むしろ、

何がまだ分かっていないのかが、かなり精密に分かるようになった。

147回話した結果は「私という人間が分かった」ではなく、まだ分かっていないことが精密に分かるようになったことだった、というUNKNOWNの図

これは大きな違いだと思う。

Person Modelを別のAIに受験させる

現在、Founder Corpusから作ったPerson Model v0.1には16個のModuleがある。

ただし、これが本当に私を表しているのかは、作ったAI自身に評価させても意味がない。

そこで24問のBlind Validation用テストを作った。

別のコンテキストのAIにはPerson Modelと問題だけを渡す。

正解側が持っている評価条件や根拠は見せない。

そして、

「この人ならどう判断するか」

を予測させる。

評価するのは単純な正答率だけではない。

本人らしく見える文章を勝手に作っていないか。

矛盾を都合よく消していないか。

分からないことを「分からない」と言えているか。

過去と現在を混同していないか。

本人が一度否定した解釈を、また持ち出していないか。

こうした点まで評価する。

Person Model v0.1と24問だけを別のコンテキストのAIに渡し、評価条件や根拠は見せずに「この人ならどう判断するか」を予測させ、正答率以外の点まで評価するBlind Validationの流れ

人間のデジタルコピーを作りたいわけではない

この実験を始めたころより、目的も少し見えてきた。

私は「自分そっくりに喋るAI」を作りたいわけではない。

口調だけなら、もっと簡単に真似できる。

欲しいのは、

ある状況に置かれたとき、この人は何を見て、何を重視し、どこで迷い、どんな条件なら判断を変えるのか。

その構造だ。

そして同じくらい重要なのが、

どこから先は、その人について推論してはいけないのか。

という境界である。

147回話した。

12時間以上かけた。

31万文字を超えた。

それでもPerson Modelはv0.1で、UNKNOWNが残っている。

でも、たぶんそれでいい。

人間を一枚のプロフィールに圧縮できなかったこと自体が、この実験で得たかなり重要な結果なのだと思う。

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