「だから」の中には何があるのか――Meaning Auditの「Warrant」という言葉の出どころ、Toulminを訪ね直す

「空が真っ黒だ。傘を持っていこう」のあいだには、口に出さない「だから」がある。Meaning Audit の Warrant という言葉の出どころである Toulmin を訪ね直し、書かれていない橋を監査する人が補うとき、それは誰の議論になるのかを考える。シリーズ「意味の地図をつくる」第9回、第2期の最初の回。

「空が真っ黒だ。傘を持っていこう」

朝、家を出る前に窓の外を見る。

空が真っ黒だ。傘を持っていこう。

誰でも言いそうな二文で、引っかかるところはない。けれども、よく見ると、一つ目の文は空の様子を言っているだけで、傘のことは何も言っていない。それなのに、私たちは迷わず二つ目の文へ進む。

「空が真っ黒だ」から、なぜ「傘を持っていこう」へ進めるのだろう。

“だから”の中に何があるのか

二つの文のあいだには、口に出さない「だから」がある。その「だから」を言葉にすると、たとえばこうなる。

空が真っ黒なら、雨が降るかもしれない。 雨が降りそうなら、傘を持っていった方がよい。

こう書くと当たり前すぎて、わざわざ言う人はいない。けれども、この橋がなければ、空の色から傘へは進めない。

ここには三つのものがある。一つは、手元にある事実(空が真っ黒だ)。一つは、そこから言いたい結論(傘を持っていこう)。そしてもう一つが、事実から結論へ進むことを支える橋である。

第8回では、根拠と結論のあいだに、理由が一つではなく複数入っているかもしれない、という問いが残った。第2期の最初の回である今回は、そのあいだを、まずいちばん単純な形で見る。

Toulmin はそこを warrant と呼んだ

この橋に名前を付けた人がいる。イギリスの哲学者 Stephen Toulmin である。Toulmin は『議論の技法』(The Uses of Argument、1958)で、議論を組み立てる要素を整理した。

その中で、手元の事実はデータ(data)、言いたいことは主張(claim)と呼ばれる。そして、データから主張へ進む一歩を許す、この橋のことを warrant と呼んだ。研究者が引いている Toulmin の言葉では、必要なのは「橋として働きうる、一般的で仮言的な言明」(“general, hypothetical statements, which can act as bridges”)であり、それが議論の踏み出す一歩を許す。

空の例では、「空が真っ黒なときは、雨になりやすい」という一般的な考えが、warrant に近い。ただし、この例は私が作ったもので、Toulmin の例ではない。

「空が真っ黒だ」という事実(データ)から「傘を持っていこう」という結論(主張)へ進むあいだに、点線の枠で「空が真っ黒なときは、雨になりやすい」という橋を置いた図。橋には「warrant に近いもの」「ふつうは口に出されない」と添えている。事実と結論は実線、口に出されない橋は点線で区別している。説明のための簡略図で、橋の文は筆者の例であり、Toulmin の図式の全体ではない

同じ研究者が引く Toulmin の言葉では、データははっきり示され、warrant は暗黙のうちに頼られる(“data are appealed to explicitly, warrants implicitly”)。空の例でも、橋は口に出されていなかった。

なお、この橋を何と考えるかには、研究者のあいだで違いがある。書かれていない前提の一つだとみる説明もあれば、前提ではなく、推論を許す規則だとみる研究者もいる。今回は、ここには深入りしない。

Warrant という言葉は、ここから来ている

ここで、意味の監査の側の話を書いておきたい。

Toulmin は、今回初めて出会った研究者ではない。意味の監査を考え始めた早い段階から、第4回で訪ねた Grice とともに、参考にしていた研究者の一人である。意味の監査で「Warrant」という言葉を使い始めたのも、Toulmin の warrant を見たことがきっかけだった。

ただし、意味の監査は Toulmin の図式を実装したものではない。実務の中で、文書の意味がどこで動くかという別の問題を扱う方法として育ってきた。言葉の出どころは Toulmin だが、意味の監査の Warrant が Toulmin の warrant と同じ概念かどうかは、まだ確かめていない。今回は、その出どころについて、研究者の論文を通して改めて読み直す。

書かれていない Warrant を補う

空の例では、橋が書かれていなくても困らない。誰もが同じ橋を思い浮かべるからだ。

けれども、資料を読むときは、そうとは限らない。議論を分析する分野(非形式論理)では、書かれていない前提を補って、その議論がどんな推論なのかを明らかにすることがある。これは、論証の再構成と呼ばれる作業の一部である。

補う候補が一つに決まらないとき、どれを選ぶか。Stanford Encyclopedia of Philosophy(SEP)の “Informal Logic” によれば、議論をできるだけ信頼できるものとして読む解釈を選ぶ、という原則(principle of charity)がある。多くの場合、この原則は、前提と結論をつなぐのに必要な、最も弱い前提を補うことで実現される、と書かれている。

補いすぎると、誰の議論になるのか

ここは、私の受け取り方である。筋の通る形を求めて補うものを増やしていけば、どこかで元の議論を読んでいるのではなくなる。

Ralph Johnson は、相手の議論を筋の通るように直しすぎることについて、こう書いた。“This is no longer argument analysis and criticism; it is argument construction”(これはもはや議論の分析と批判ではなく、議論の構築だ)。

Johnson の言葉から、私が持ち帰ったのは次のことだ。

筋の通る議論に直すことと、元の資料に忠実であることは、同じではない。

実務では「だから」が一つとは限らない

実務の文書では、橋はもっと見えにくい。たとえば、部下の報告書にこう書いてあったとする。

売上が増えた。この施策は継続すべきだ。

上司は「この施策が売上増に寄与したから、続けるべきだということだね」と読む。けれども、「寄与した」は報告書のどこにも書かれていない。

しかも、それを補っても、まだ「継続すべきだ」には届かない。「売上増に寄与した施策は継続すべきだ」という、もう一つの橋も要る。費用や手間を考えれば、この橋も自明ではない。

空の例でも橋は二つあったが、誰もが同じものを思い浮かべた。ここでは、人によって補うものが変わりうるうえ、一つ目を補ってもまだ足りない。第8回で「前提の束」と呼んだ問いに、こういう形でも出会う。資料を監査する人が読むときも、同じことが起こる。

部下の報告書に書かれていることと、読む人が補ったことを区別した図。実線の枠は報告書に書かれている「売上が増えた」と「この施策は継続すべきだ」。そのあいだに、読む人が補ったものを点線の枠で二つ置いている。一つ目の橋は「この施策が売上増に寄与した」、もう一つの橋は「売上増に寄与した施策は継続すべきだ?」で、疑問符を付けている。一つ目を補っても「継続すべきだ」まではまだ届かず、書かれていない「だから」は一つとは限らないことを示す。記事の理解のための整理で、論証論の正式なモデル図ではない

意味の監査へ戻る

ここからは、私の側の考察として書く。

意味の監査でも、Warrant を補うことはある。意味の監査の手順書(Workflow v1.0)には、Warrant が示されていない場合、監査者が補った Warrant は INFERRED(推論したもの)と明記し、事実として扱わない、という決まりがある。補うこと自体は、監査の一部である。

今回、この決まりについて新しい問いが見えた。INFERRED と書けば、それで十分なのだろうか。

  • どれくらい補ったのか。最小の橋か、それより強い橋か。
  • 補ったことで、元の資料を強めていないか。
  • 議論に必要な橋を補ったのか、書き手が考えていたことまで推測したのか。

INFERRED は、補ったことを示すラベルである。けれども、たとえば監査者が「寄与した」という橋を補えば、報告書が言っていない議論を、報告書の読みとして組み立てることになりうる。何をどの程度補ったかによって、監査者の組み立てた議論は、元の資料から遠ざかりうる。今回はこの問いを記録するところまでにして、Workflow は変えない。

意味の監査から見た地図(第9回)

意味の監査には、資料を読み進める段がいくつかある。今回の問いは、そのうち三つにかかわった。左に段、右に今回の訪問から投げかけられる問いを置く。論証論の考え方を、段に組み込んだのではない。

意味の監査の三つの段と、今回の訪問から投げかけられる問いを並べた見取り図。Evidence / Source(報告書に書かれた二つの文)には「実際に書かれているのはどこまでか/どこからが、読む人が補ったものか」。Inference / Warrant(売上増から「継続すべき」へ)には「事実から結論へ進む橋は、書かれているか/書かれていない橋を、監査する人はどこまで補ってよいか」。Commitment(報告書が引き受けていること)には「補った橋によって、元の資料より強い主張にしていないか」。Inference / Warrant を最も強く、ほかの二つを副次的に強調している。論証論の正式なモデルでも、新しい仕様でもない

注記: 右の問いは、論証論の正式なモデルではなく、今回読んだ範囲から私が拾った問いである。

今回分かったこと

  • 事実から結論へ進むとき、そのあいだには、口に出されないことの多い橋がある。
  • Toulmin は、その橋を warrant と呼んだ。意味の監査の Warrant という言葉は、ここから来ている。
  • ただし、意味の監査は Toulmin の図式を実装したものではない。
  • 議論を分析するとき、書かれていない前提を補うことがある。補いすぎると、分析は議論の構築に変わりうる。
  • 実務の文書では、補う橋が一つとは限らない。

まだ分からないこと

  • 意味の監査の Warrant は、Toulmin の warrant と同じ概念なのか。言葉の出どころは分かったが、概念の重なりはまだ確かめていない。
  • 監査者は、書かれていない橋を、どこまで補ってよいのか。
  • 補った Warrant について、何をどの強さで補ったかまで記録する必要はあるのか。
  • 書き手は、理由を成果物にどこまで書くべきなのか。今回読んだ資料は、この問いに答えていなかった。

次回

次にどの問いへ行くかは、まだ決めていない。

(2026年10月22日に改稿した。初版では、Warrant という語を選んだ理由は記録が残っていないと書いていたが、その後、Toulmin の warrant から取ったことを確認したため訂正した。あわせて、扱う内容を絞って書き直した。)


出典

引用した英文の日本語訳は筆者による。Toulmin『議論の技法』の第3章(warrant を定義した章)は読んでおらず、Toulmin の言葉は Hitchcock らの論文に引用されたものによる。warrant の見方の違い、再構成、principle of charity について今回読んだ資料の詳細は、調査ノートに記録した。

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