「4%増」と書いてあったのに、なぜ「大きく伸びた」と思ったのか――Meaning Auditから記号論を訪ねる

スライドの注記は「前年比4%増」。それでも会議の参加者は、縦軸が途中から始まる赤い棒グラフを見て「大きく伸びた」と受け取った。言葉で書かれていないことを、グラフや色や矢印はどう伝えているのか。シリーズ「意味の地図をつくる」第7回は記号論を訪ねる。

会議で残った「大きく伸びた」

月例の会議で、売上の報告スライドが映された。

タイトルは「今期の売上」。中央に棒グラフが二本並んでいる。左が前年、右が今年。右の棒は赤く塗られていて、その上に太い上向きの矢印が置かれている。右の棒は、左の棒の三倍ほどの高さに見えた。

スライドの下のほうには、小さな文字でこう書かれていた。

前年比4%増。新規顧客の寄与は未確認。

会議のあと、廊下で誰かが言った。「今期、ずいぶん伸びたね」。私も、同じ印象を持っていた。

あとで資料を見直して、気がついた。スライドのどこにも「大きく伸びた」とは書かれていない。書かれている数字は「4%」で、「未確認」という留保まで付いている。それでも、会議室にいた人の多くが「大きく伸びた」と受け取って帰った。

グラフの縦軸は、0からではなく、前年の値の少し下から始まっていた。だから、4%の差が、棒の高さでは何倍もの差に見えていた。

(この場面は、説明のために作った仮の例である)

説明のための仮の例として、会議で映された売上スライドを再現した図。左は「今期の売上」というタイトルのスライドで、縦軸が100の少し下から始まり、前年の灰色の棒に対して今年の棒は赤く、上向きの矢印が添えられ、三倍ほどの高さに見える。下には小さく「前年比4%増。新規顧客の寄与は未確認。」と書かれている。右は同じ数字(前年を100としたとき今年は104)を縦軸0から描いたグラフで、二本の棒はほとんど同じ高さに見える。数字は4%しか違わないのに、見え方が大きく変わることを示している

誰も「大きく伸びた」とは書いていない

前回、解釈学を訪ねて、読む人もまた意味が生まれるところに関わっている、と考えた。そう考えてから資料を見直すと、もう一つ気になることが出てきた。私が読んでいるのは、文章だけではなかった。

このシリーズは、ここまで言葉を見てきた。書いてあることと伝わることの違い(第3回)、言っていないのに伝わること(第4回)、言うことで行われること(第5回)、時を隔てて読まれること(第6回)。

けれども、会議で「大きく伸びた」を伝えたのは、言葉ではなかった。棒の高さ、赤い色、上向きの矢印、そして縦軸の始まる位置だった。

言葉で書かれていないことを、グラフや色や矢印は、どうやって私たちに伝えているのだろう。

しるしについての学問

調べてみると、言葉に限らず、「何かが何かを意味する」こと全般を考える分野があった。記号論(semiotics)である。

フランスの Larousse 百科事典の「sémiotique」の項目は、記号論は主に、アメリカの哲学者 C. S. Peirce(パース)と、ジュネーヴの言語学者 F. de Saussure(ソシュール)の仕事から形づくられた、と書いている。Saussure は、この学問を「記号学」(sémiologie)と呼び、“une science qui étudie la vie des signes au sein de la vie sociale”(社会生活の中で、記号の生を研究する科学)と定義した、という。

今回は、このうち Peirce の側から入った。入口にしたのは Stanford Encyclopedia of Philosophy(SEP)の “Peirce’s Theory of Signs”(Albert Atkin)である。この項目は冒頭で、Peirce の記号論は、意味作用・表象・指示・意味についての説明であり、その特徴の一つは、意味作用にとって解釈が重要であることをとらえた点にある、と紹介している。

図そのものについては、同じ SEP の “Diagrams and Diagrammatical Reasoning”(Sun-Joo Shin ほか)も読んだ。訳語の確認には、日本語の大学紀要の論文二本を使った。今回も、専門家として解説するのではなく、読んで理解できた範囲を記録する。Peirce や Saussure の原典は、今回は読んでいない。

しるしは、読まれてはじめて意味する

Peirce の考え方で最初に目にとまったのは、意味が「二つのもの」ではなく「三つのもの」のあいだで成り立つ、という点だった。

ふつう、意味というと、言葉とそれが指すもの、という二つの関係を思い浮かべる。「煙」というしるしと、「火」という指されるもの、のように。

SEP によれば、Peirce は、しるし(sign)、それが指す対象(object)、そしてもう一つ、interpretant(インタープレタント)の三つを考えた。interpretant は、しるしと対象の関係について私たちが持つ理解、と説明されている。そして SEP は、Peirce にとって意味作用は、しるしと対象の単純な二項関係ではなく、“a sign signifies only in being interpreted”(しるしは、解釈されることによってのみ意味する)のだと書いていた。SEP の説明に沿って言えば、しるしは「解釈されて」はじめて意味する。このシリーズの言葉で言えば、「読まれてはじめて意味する」とも言える。

前回、解釈学で見た「読む側もまた、意味が生まれるところに関わっている」という考えと、どこか響き合う。ただし SEP は、interpretant を「読み手の主観」とは説明していない。より正確には、もとのしるしを「翻訳」したもの、あるいは展開したもの、と考えたほうがよいかもしれない、と書いている。さらに SEP は、Peirce のいう「対象がしるしを決定する」という関係を、対象の側がしるしに条件を課すこととして理解するのがよいだろう、と説明している(この概念自体ははっきりしない、とも断っている)。

SEP の例では、庭にできたモグラ塚が、モグラがいることのしるしになる。けれども、モグラ塚のすべての特徴が意味を担っているわけではない。土の色は、土の種類によって変わるので、あまり関係がない。大事なのは、モグラが土を盛り上げたという、モグラ塚とモグラのあいだの物理的なつながりのほうだ。

しるしは読まれてはじめて意味するが、読み手が好きなように意味を決めているわけでもない。しるしのどの特徴が意味を担うのかは、対象との関係によって絞られている。

しるし・対象・interpretant の三つが互いに線で結ばれた図。しるしは庭のモグラ塚、対象はモグラ、interpretant は「ここにモグラがいる」という理解。しるしと対象のあいだには「対象が、しるしのどの特徴が効くかを絞る(土の色ではなく、盛り上げたつながり)」と添えている。三つは上下の階層ではなく互いに関係していること、interpretant は読み手が自由に決める意味ではないことを示している

似ている、つながっている、決まっている

では、しるしは、どんな仕方で対象を指すのか。Peirce のよく知られた区別が、ここに出てくる。

SEP の説明を私なりの言葉に置き換えると、三つある。

一つ目は、似ている ことで指すもの。肖像画が、描かれた人に似ていることで、その人を指すように。Peirce はこれを icon(イコン、類像)と呼んだ。

二つ目は、つながっている ことで指すもの。煙が火を、風見鶏が風向きを指すように、実際につながっていることで指す。因果的なつながりは、その一つである。これが index(インデックス、指標)である。

三つ目は、決まっている ことで指すもの。「homme」と「man」が同じものを指すのは、似ているからでも、つながっているからでもなく、そういう使い方の決まりや習慣があるからだ。これが symbol(シンボル、象徴)である。SEP は、しるしを別の観点から分ける説明の中で、信号機や言葉を、決まりや習慣によって意味するしるしの例に挙げている。

ただし、この三つは、きれいに分かれるものでもなかった。SEP によれば、1903年ごろまでに Peirce は、純粋な icon や index を見つけるのは、不可能ではないにしても難しいと気づいていた。一つのしるしが、似ている性格、つながっている性格、決まっている性格を、組み合わせて持ちうる。日本語の論文(中川敏)も、Peirce は、すべての記号がこの三つの性格をそれぞれ持っていると考えていたようだ、と読んでいる。

しるしが対象を指す三つの仕方を、記事で使った平易な言い方で並べた図。「似ている」(icon)の例は肖像画と棒の高さで、縦軸を途中から始めると似方が崩れる。「つながっている」(index)の例は煙と火、記録とグラフで、どの記録から作ったかが見えないと確かめられない。「決まっている」(symbol)の例は言葉・信号と色や矢印で、決まりや習慣が共有されていないと読み違える。Peirce の正式な分類図ではなく、一つのしるしが三つの性格を併せ持つこともある、と注記している

また SEP によれば、Peirce は icon の例に、幾何学の推論で使われる図を挙げていた。図は、「似ている」ことで意味するしるしの例として扱われていた。

図は、結論を見せてしまう

SEP の “Diagrams” は、Larkin と Simon の論文「なぜ図は、ときに一万語に値するのか」(1987)を紹介している。二人は、同じ内容を表す文と図を比べて、二つの表現は情報としては同じでも、そこから推論を引き出す手間が違う、と論じた。図では関係が目に見える形で並ぶので、結論を “read off”(読み取る)ことができる、という。二人によれば、経済学の需要と供給のグラフでは、均衡点の相対的な位置がはっきり見えるので、単純で直接的な知覚の働きで結論を読み取れる。そこに図の大きな効用がある。

SEP は、これを図の強みとして紹介している。会議のスライドに戻ると、同じことが別の顔を見せる。

「大きく伸びた」という結論は、文として書かれていない。読む人が、棒の高さから、ほとんど一瞬で読み取った。読み取りが速いことは、そこで推論が起きていないことを意味しない。むしろ、推論があまりに速く起きるので、推論したことに気づきにくいのかもしれない。

同じ項目には、図の限界についての議論もあった。円の重なりで集合の関係を表す Euler 図では、描き方の制約から、論理的には必要でない関係まで描かされてしまう場合がある。SEP は、そうした図に頼って推論すれば、誤った推論をしてしまうことになる、と書いている。さらに、矛盾や恒真式は世界の一部ではない、という議論の流れで、「雨が降っているか、降っていないか」という、どちらかであるという情報を、どうやって絵にするのか、という問いも置かれていた。

これは論理学の図についての議論で、売上のグラフの話ではない。ただ、私はここから一つ問いを拾った。文章なら「〜かもしれない」「未確認」と書ける。図は、そういう留保を描くのが苦手なのではないか。会議のスライドでも、「新規顧客の寄与は未確認」という留保は本文の小さな文字にだけあり、赤い棒と矢印には残っていなかった。

もう一度、会議のグラフを見る

ここで、会議のスライドを、Peirce の三つの区別を借りて見直してみる(以下は、記号論そのものではなく、そこから借りた視点で私が整理したものである)。

まず、棒の高さは「似ている」ことで意味している。棒の高さの比が、売上の比に似ている、という約束で読まれている。ところが、縦軸が0から始まっていないと、この「似ている」が崩れる。売上の比は1.04倍なのに、棒の高さは三倍に見える。

次に、グラフ全体は「つながっている」ことでも意味している。読む人は、このグラフが実際の売上記録から作られたものだと思って見ている。記録が変われば、棒の高さも変わるはずだ、と。けれども、その「つながり」は、スライドの上では見えない。どの記録から、いつの時点の数字で作ったのかは、スライドには書かれていなかった。

そして、赤い色と上向きの矢印は「決まっている」ことで意味している。上向きの矢印は良いこと、赤は強調、という決まりで読まれている。けれども、赤を「注意」や「悪化」の意味で使う職場もあるかもしれない。その決まりは、誰と誰のあいだで共有されているのだろう。

こうして分けてみると、「グラフが本文以上のことを言っている」と一言で言っていたものが、三つの別々の問いに分かれる。似ていることが崩れていないか。つながりは確かめられるか。決まりは共有されているか。三つは、別々の場所で崩れうる。

「大きく伸びた」という意味を最後に完成させたのは、会議室にいた人たちの読みだった。ただし、その読みは、縦軸の位置や棒の高さという、しるしの側の特徴に強く導かれていた。

「語用論」の古い定義

第3回で、意味の監査の Context / Pragmatics という名前は、学問としての語用論(pragmatics)とどこまで重なるのか、という問いを残した。とくに、図や配置による意味は、語用論でどう扱われているのか。

SEP の “Pragmatics” の項目には、語用論のいくつかの定義が並べられている。その最初にあるのが、Charles Morris の1938年の定義だった。意味論はしるしと、それが指しうる対象との関係を扱い、“Pragmatics concerns the relation of signs to their interpreters.”(語用論は、しるしとその解釈者との関係を扱う)。Larousse の項目も、Morris が記号論を、語用論・統語論・意味論の三つの部門に分けた、と書いている。

「語用論」は、少なくとも Morris の定義では、発話に限らず、しるし一般とそれを解釈する人の関係を指す言葉として定義されていた。図や配置も、その「しるし」に入りうる。

ただし、これは一つの古い定義についての話で、今の語用論の研究が図や配置をどこまで扱っているかは、今回は確かめていない。SEP の同じ節には、話し手や言語の使用者に注目する Carnap の定義なども並んでいて、語用論の定義は一つではなかった。第3回の問いには、半分だけ手がかりが見つかった。

意味の監査との接続

ここからは、私の側の考察として書く。

まず、意味の監査は、図をもともと監査の対象にしている。Workflow v1.0 は、監査の単位に「図、グラフ」を含め、Context / Pragmatics の段で「図・グラフ・色・大きさ・配置が、本文以上の主張をしていないか」を確かめる、と決めている。図や配置が本文や Source 以上の主張をしている場合には、VISUAL_CLAIM という種類の Finding として記録する。今回の会議のスライドも、この観点で拾えるはずだ。

だから、記号論が意味の監査に新しい対象を持ち込んだわけではない。記号論から借りられそうなのは、「図が本文以上の主張をしているか」を確かめるときの、問いの分け方のほうだ。先ほどの三つの問いは、監査の段にも置き直せそうだ。図がどの記録とつながっているかは Evidence / Source の段、色や矢印の決まりが誰のものかは Interpretation の段、似方が崩れていないか(縦軸の起点、面積、縮尺)は Context / Pragmatics の段で確かめる、という分け方も考えられる(Workflow v1.0 自体は、色や配置も Context / Pragmatics の段で見る項目に入れている)。

もう一つは、図から読み取られる結論の扱いだ。意味の監査では、根拠から結論へのつながりを Inference / Warrant の段で見る。図からは、結論が文として書かれないまま読み取られる。その「読み取らせている結論」を、文の形に書き出してから確かめる、という手順は、監査の中で役に立つかもしれない。

本文で「未確認」「可能性」と書かれていることが、図で言い切られていないか、という点もある。これは、Workflow v1.0 の Commitment の段で、確度や強さが根拠より強く提示されていないかを見る観点(AMPLIFICATION)と重なりそうだ。

ただし、記号論と意味の監査は、同じことをしているわけではない。記号論は、しるしが意味するとはどういうことかを問う理論で、Peirce にとっては論理学や探究の理論とも結びついた哲学の一部だった。意味の監査は、成果物の中で意味がどこで動いたかを追う方法である。Peirce の分類は、しるしの種類を考えるためのもので、ある図が誤解を招くかどうかを判定する基準ではない。SEP は、Peirce の最晩年の記号論には、まだ不明瞭で、未完成で、論争的な部分が多く残っている、とも書いている。記号論の分類を、監査の分類としてそのまま持ち込むことはできないし、そのつもりもない。

AI が描いたグラフは、何とつながっているのか

最後に、気になっていることを一つ置いておく。

最近は、AI に資料の要約やスライドを作ってもらうことも増えた。AI は、それらしいグラフも描く。

Peirce の三つの区別を借りると、ここで一つ問いが立つ。実際のデータから表計算ソフトや可視化ツールで作ったグラフは、AI がその作業を手伝っていても、どのデータから作ったかをたどる道が残る。けれども、生成過程や元データが見えない AI 生成グラフは、見た目はグラフに「似ている」が、どの記録と「つながっている」のだろう。見た目が似ていることと、記録とつながっていることは、別のことのはずだ。

Workflow v1.0 自身も、限界として、AI が図・画像・グラフ・レイアウトを正しく読めない場合がある、と書いている。AI は図を正しく読めるのか、という問いと、AI が描いた図は何とつながっているのか、という問いは、別の問いだ。

今回読んだ資料には、AI や機械が作るしるしについての議論は見つからなかった。ここは、分からないこととして残しておく。

意味の監査から見た地図(第7回)

これまでと同じく、左に意味の監査の段、右に今回の学問から投げかけられる問いを置く。記号論の考え方を、意味の監査の段に挿入したのではない。今回は、問いが Interpretation と Context / Pragmatics に集まり、Evidence / Source と Commitment にも問いが加わった。

意味の監査の五つの段と、記号論から投げかけられる問いを並べた見取り図。Evidence / Source(グラフの元になった売上記録/スライドに描かれた棒・色・矢印)には「この図は、どの記録とつながっているのか(いつの時点の、どの数字か)/図のどの特徴が、意味を担っているのか」。Interpretation(棒の高さ・赤い色・上向きの矢印は何を表しているか)には「似ていることで意味しているのか、つながりか、決まりか/その決まりは、誰と誰のあいだで共有されているのか」。Inference / Warrant(グラフから「大きく伸びた」と読み取ってよいか)には「見ただけで読み取れてしまう結論はどれか/その結論は、数字からも言えるか」。Context / Pragmatics(会議のスライド、タイトル、配置、本文との組み合わせ)には「図と本文は、同じことを言っているか/似方は崩れていないか(縦軸の起点、大きさ)/図が先に読まれたとき、何が伝わるか」。Commitment(スライドとして何を引き受けているか)には「本文の留保(「未確認」)は、図にも残っているか/図は本文より強く言い切っていないか」。Interpretation と Context / Pragmatics を最も強く、Evidence / Source と Commitment を副次的に強調している。既存の段に問いを重ねたもので、新しい仕様ではない

注記: 右の問いは、記号論の正式なモデルではなく、今回読んだ範囲から私が拾った問いである。

今回分かったこと

  • 「図が本文以上のことを言っている」という一つの問いは、似ていることで意味しているのか、つながっていることで意味しているのか、決まっていることで意味しているのか、という三つの問いに分けられる。三つは別々の場所で崩れうる。
  • しるしは解釈されてはじめて意味する、と Peirce は考えた。ただし、読み手が自由に意味を決めるのではなく、対象との関係が、しるしのどの特徴が意味を担うかを絞っている。前回の「読む人も意味に関わる」を、もう少し細かく考えられるようになった。
  • 図からは、結論が文として書かれないまま読み取られる。読み取りが速いことは、推論が起きていないことを意味しない。
  • 図は、「〜かもしれない」という留保を描くのが苦手なのではないか(論理学の図の議論から私が拾った問いで、まだ確かめてはいない)。本文の留保が図で消えていないかは、確かめる価値がある。
  • 「語用論」は、少なくとも Morris の定義では、しるし一般とその解釈者の関係を指す言葉として定義されていた。

まだ分からないこと

  • 今の語用論の研究は、図・配置・色をどこまで扱っているのか。今回確かめられたのは、Morris の定義までだった。
  • 色や矢印の「決まり」は、誰の決まりなのか。会社や業界や文化によって違うとき、意味の監査はどの決まりを基準にすればよいのか。前回の「どの文脈で読むか」と同じ形の問いが、ここにも出てきた。
  • 図と本文が別のことを言っているとき、成果物が引き受けた Commitment は、どちらで判断するのか。
  • 生成過程や元データが見えない AI 生成グラフは、データと「つながっている」と言えるのか。今回の資料には、AI についての議論はなかった。
  • 画像に添えられた言葉が、画像の意味を固定する、という Barthes の「イメージの修辞学」(1964)の議論があることは、大学の授業用ページの要約で知ったが、原典の該当箇所は読めなかった。組織の中の記号を扱う「組織記号論」という分野があることも知ったが、今回は読んでいない。

次回

今回、会議のグラフを、似ている・つながっている・決まっている、の三つに分けて見直した。そのうち「つながっている」は、グラフが実際の記録から作られているか、という問いだった。

けれども、仮にグラフが記録ときちんとつながっていて、縦軸も0から始まっていたとしても、まだ問いは残る。「前年比4%増」という記録は、「今期は回復した」という結論を、どこまで支えるのだろう。一年分の数字の差は、たまたまの揺れなのか、何かが変わった証拠なのか。

データと結論のあいだで、何が求められるのか。次は、この問いを持って、科学哲学を訪ねる。


出典

引用した英文・仏文の日本語訳は筆者による。Peirce の論文・草稿、Saussure『一般言語学講義』、Morris『記号理論の基礎』(Foundations of the Theory of Signs、1938)、Larkin & Simon の論文(1987)は、今回は読んでいない。Peirce・Morris・Larkin & Simon の言葉は SEP の項目に引用・紹介されているもの、Saussure の定義は Larousse の項目に引かれているものによる。Barthes「イメージの修辞学」(“Rhétorique de l’image”, Communications 4, 1964)は、冒頭のみ確認した。

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